『着せ替え人形は恋をする』キャラ徹底考察｜喜多川海夢・乾紗寿叶・ジュジュ・五条新菜、それぞれの“好き”のかたち

“好き”を語るとき、言葉はいつも足りない。だけど、それを“態度”に変えてしまう瞬間が、彼らの物語には確かにあるのです──

『その着せ替え人形は恋をする』は、登場人物それぞれが内に秘めた「好き」に向き合いながら、すれ違い、重なり、変化していく青春の肖像画。

今回は、中心４人──喜多川海夢、乾紗寿叶（ジュジュ）、五条新菜、そして乾心寿（のんちゃん）を含めた人物たちが紡ぐ“好き”のかたちを、心情と演出の両面から読み解いていきます。

『その着せ替え人形は恋をする』とは？キャラ考察前に知っておきたい基本情報

「本当の“好き”って、誰かに笑われるようなものかもしれない。でも、それでも諦められないんだ。」

そんな感情の原点を、あなたは最後に感じたのはいつだったでしょうか？

『その着せ替え人形は恋をする』は、誰にも言えない“好き”を抱えた少年と、堂々と“好き”を叫ぶ少女が出会い、お互いの世界を少しずつ塗り替えていく物語です。

主人公・五条新菜（ごじょう わかな）は、高校1年生。祖父の工房で雛人形づくりを学びながら、黙々とひとりで生きてきた少年です。静かで、控えめで、でも心の奥では“美しいもの”に強く惹かれる優しい魂を持っています。

そんな彼の前に現れたのが、クラスの人気者でギャルの喜多川海夢（きたがわ まりん）。明るくて、社交的で、そして何より“好き”という気持ちに全力な女の子。

彼女の夢は、二次元のキャラクターになりきること。コスプレという手段で、物語の世界に飛び込みたいと願う海夢の姿に、新菜は初めて「誰かの“好き”を支える」よろこびを知ります。

掲載誌は『ヤングガンガン』（スクウェア・エニックス）で、スマホアプリ『マンガUP！』でも連載。単行本は15巻まで刊行され、累計発行部数は1,300万部を突破。海外にも翻訳され、世界中で“共感とときめき”を広げています。

2022年にはアニメ第1期が放送され、洗練された作画と丁寧な感情描写が話題に。そして2025年7月──ついに第2期がスタートし、今また多くのファンが“彼らの続き”に胸を躍らせています。

この作品は、ただのラブコメではありません。

「誰かに好きって言えるまでの距離」
「夢を語る勇気と、それを笑われた過去」
「自分で自分を肯定するまでの時間」

そうした、目には見えない“心の縫い目”を、丁寧に描いてくれる物語です。

あなたの“好き”は、あなたのもの。
そしてきっと、この物語の誰かが、あなたの気持ちにそっと寄り添ってくれるはずです。

喜多川海夢｜“好き”を全力で生きる、自己表現の天才

「好きなものを好きって言える自分でいたい」──それが、喜多川海夢という少女のすべてだと思う。

彼女はギャル。明るくて、堂々としていて、誰とでも分け隔てなく接する人気者。だけどその“まぶしさ”に、どこかで戸惑いを覚えたことがある人もいるかもしれません。

でも、海夢の魅力は“陽キャ”だからではありません。

彼女の本質は、「好き」に対してとことんまっすぐなところにあります。

アニメやゲーム、漫画のキャラクターたち──世間から“オタクっぽい”と揶揄されても、海夢はその愛を隠さない。コスプレという形で、自分の“好き”を世界に表現しようとする。その姿はまるで、“夢を服にする少女”です。

でも、彼女だって完璧じゃない。

裁縫は苦手だし、技術はない。だけど「なりたい自分になるためなら、恥ずかしさも不器用さも乗り越えたい」──そんな想いで、五条新菜に衣装製作を頼む場面は、見ているこちらが泣きたくなるほど純粋でした。

初めて人に「自分の好きな世界」を見せるときの、あの怖さ。わかってくれる人がいるかどうか、信じていいのか不安でいっぱいな中で、それでも差し出した“好き”。

そんな彼女に、五条がぽつりと告げた「きれいだった」のひとこと。

それは、ただの褒め言葉じゃない。彼女の“好き”を、まるごと肯定する魔法の言葉だったのです。

その瞬間から、海夢の中で何かが変わり始めます。恋としての“好き”、人としての“憧れ”、夢を共有したいという“願い”──彼女の想いが幾層にも重なって、ひとつの大きな“感情”に育っていく。

✦ 喜多川海夢は、“好き”を隠さない勇気の象徴。
誰かの目が怖くて、胸の奥に押し込んでしまった気持ち。
そんな“好き”にもう一度触れてみたいと思えるのは、海夢がまっすぐに生きているから。

彼女の言葉、表情、そしてコスチュームの一針一針が伝えてくれるのは──
「好きなものを好きだと言うことは、かっこ悪くなんかない」という、まぎれもない真実なのです。

五条新菜｜“好き”に臆病だった少年が、誰かの夢を縫い上げるまで

「自分の“好き”は、人に見せてはいけないものだと思っていた。」

五条新菜は、静かな少年です。
教室の隅で目立たず、誰かと話すことも少ない。
けれどその心の中には、幼いころからずっと“美しさ”への憧れが息づいていました。

祖父の仕事に憧れ、雛人形づくりを志した少年。
人形の顔を描き、着物を縫い、伝統を守りながらも「自分の好きなもの」を丁寧に抱えて生きてきた彼は、ある日それを否定されます。

「自分の好きが理解されなかった過去」──その出来事が、彼の世界を閉じました。

好きなものを語らない。
誰にも踏み込まれないように心を閉ざす。
そうして息を潜めるように生きていた彼の人生に、喜多川海夢という存在が現れます。

自分の“好き”をまっすぐに伝え、夢を語り、笑って生きる海夢。
その姿はまるで、新菜が心の奥にしまっていた「本当の自分」のようでした。

彼女のために衣装を作るうちに、新菜は気づいていきます。
誰かの“好き”を形にすることは、決して自分を否定する行為じゃない。

むしろそこには、“好き”を信じる力と、“誰かの夢”を支えるよろこびがあるのだと。

やがて、イベントの帰り道。
「きれいだった」と、たった一言を彼が海夢に伝えた瞬間──
その言葉は、彼女の姿だけでなく、彼自身の気持ちも照らしていたのです。

恋、尊敬、憧れ、感謝──

複雑に絡まる想いを、彼はうまく言葉にできない。
だけど、新菜にはそれを“針と糸”で語る方法がありました。

✦ 五条新菜の“好き”は、静かに、でも確かに縫い上げられていく。
誰にも見せなかった想いを、誰かのために丁寧に形にしていく──
その姿は、まるで“夢を縫う職人”のよう。

一針一針の中に込められた気持ちは、彼がどれだけ臆病で、どれだけ優しいかを物語っています。

そしてその優しさこそが、この作品を支える“やさしい芯”なのです。

乾紗寿叶｜理性と憧れの狭間で揺れる、プライド高き乙女心

完璧主義で礼儀正しく、周囲に対しては毅然とした態度を貫く乾紗寿叶。
コスプレイヤーとしてのハンドルネームは“ジュジュ様”。その完成度の高さとストイックさでファンを魅了しています。

しかしその内面には、妹・心寿（のんちゃん）への愛情や、自身の“かわいさ”に対する強いコンプレックスも潜んでいます。

「ロリキャラをやるには年齢的に限界がある」──そんな諦めを抱えながらも、コスプレを諦めきれなかった彼女の“好き”は、理性と情熱の綱引きのよう。

海夢と出会い、五条の衣装によって“なりたい自分になれる喜び”を知った彼女は、次第に自分の気持ちに正直になっていきます。

✦ 乾紗寿叶にとっての“好き”は、憧れと自立の象徴。
誰かのように“なりたい”という願いは、いつか“自分として認められたい”という自己肯定に変わる──
彼女の物語は、そんな感情の成長を繊細に描いています。

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乾紗寿叶｜理性と憧れの狭間で揺れる、プライド高き乙女心

「夢を見るのは自由。だけど、夢を口にするには、ちょっとだけ勇気がいる。」

乾紗寿叶──通称“ジュジュ様”。
小柄な体格と整った顔立ちからは想像できないほどの、強い意志と鋭いまなざしを持つ少女です。

コスプレイヤーとして知られる彼女は、衣装の完成度、キャラの演じ分け、撮影スタイルに至るまで妥協を許さない完璧主義者。
誰よりもストイックで、誰よりも真面目で、そして──誰よりも“夢中”な人。

でもその強さは、決して生まれつきではなかったのかもしれません。

「ロリキャラは自分にはもう似合わない」
「“かわいい”を演じるには、歳を取りすぎたかもしれない」

そうした言葉が、彼女の心に影のように差していました。

彼女の“好き”は、いつも“理性”と“憧れ”の間で揺れ動いています。
理性的な自分は、「似合わないからやめよう」とささやく。
でも、心のどこかでは「それでもなりたい自分になってみたい」と願ってしまう。

そんな彼女が出会ったのが、喜多川海夢。そして五条新菜。

ふたりの“好き”を信じる姿に触れて、紗寿叶は知るのです。
「自分がなりたい自分になれる場所は、こんなにも近くにあったんだ」と。

五条が仕立てた衣装に袖を通したとき。
心寿（のんちゃん）が鏡越しに「お姉ちゃん、かわいい」と笑ったとき。

紗寿叶の“好き”は、ようやく「他人の視線」を越えて、「自分自身の願い」に形を与えはじめました。

✦ 紗寿叶にとって、“好き”は鏡のようなもの。
誰かのようになりたいと願った気持ちは、いつしか「私はこのままでいいんだ」と、自分を肯定する光に変わっていく。

彼女の成長は、派手な転機ではなく、静かな“変化”の積み重ねです。
だけどその変化こそが、どこまでも現実的で、私たちの胸を打つのです。

「夢をあきらめる理由なら、いくらでも見つけられる。でも、あきらめない理由がひとつでもあるなら、それはきっと本物だ」

ジュジュ様の物語は、そう語りかけてくるのです。

ジュジュ様（心寿）｜“かわいい”を全力で支える妹のまなざし

「誰かの“かわいい”を、私だけは信じていたい。」

乾心寿（いぬい のんじゅ）──姉・紗寿叶（さじゅな）を「ジュジュ様」として陰から支える少女。

小さな体に、年齢不相応なほど冷静な観察眼。
的確なメイク、光を読んだ撮影指示、キャラクター解釈の深さ……どれをとっても“プロの裏方”と呼ぶにふさわしい技術を持つ彼女。

でも、そのすべては“姉が姉らしくいられるため”に磨かれたものでした。

のんちゃんは、言葉数が少なく、感情表現も控えめ。
けれど、彼女の眼差しにはいつもまっすぐな愛が込められています。

ジュジュ様──紗寿叶が見せる完璧主義の裏に潜む“本当の気持ち”を、きっと誰よりも早く気づいていたのは、のんちゃんです。

「お姉ちゃんは、ほんとはもっと自分を好きになってほしいと思ってる」
そう確信しているからこそ、彼女は黙って支え続けるのです。

衣装の仕上がりを見守り、撮影の角度を調整し、メイクを施すその手には、「あなたはちゃんとかわいいよ」と語りかけるような優しさが宿っています。

のんちゃんの“好き”は、自分のためではありません。
誰かの夢を叶えるために、自分の知識と技術を惜しみなく注ぐ、そのまなざしこそが彼女の“好き”なのです。

そして、ときに冷静なツッコミで姉や海夢を現実に引き戻すバランス役でもあり、物語の“体温”を整える存在としても機能しています。

✦ 誰かを支える“好き”もまた、まっすぐな感情。
スポットライトの裏側に立ち続ける彼女は、「表舞台に立つ勇気」と「舞台を支える誇り」の両方を知っている。

小さな背中に込められた静かな覚悟──
それは、登場人物たちの成長に“気づかれない形で影響を与える”、とても大切な力です。

のんちゃんのまなざしは、今日も誰かの“かわいい”を信じて照らしています。
それが、彼女なりの愛のかたちなのです。

キャラクターたちの“好き”が交差する瞬間──心の相関図を読む

人は、ただ「好き」という言葉ひとつで、どれだけの感情を抱えられるのだろう。

ときには胸の奥がざわつくような想い。
ときには憧れという名の羨望。
ときには、誰かの夢を支えたいという静かな祈り。

『その着せ替え人形は恋をする』の登場人物たちは、それぞれに違うかたちの“好き”を持ち、それが交差することで物語に色彩を与えていきます。

一方向に向けられた感情が、誰かの背中を押すこともあれば、すれ違いによって傷を残すこともある。

でもそのすべてが、「ひとつの視点だけでは語れない多層的な物語」を生んでいるのです。

• 喜多川海夢 → 五条新菜： 恋・尊敬・ときめき。
  「あなたが作る世界に、私は命を吹き込みたい」──その想いが、彼女の“好き”の源。
• 五条新菜 → 海夢： 恋・驚き・再生。
  「自分を否定せずに生きている人に出会った」──その衝撃が、彼の心を少しずつ溶かしていく。
• 乾紗寿叶 → 自己の理想像： 自己肯定・勇気・美意識。
  「なりたい自分」を諦めかけたそのとき、仲間たちのまなざしが、彼女に光をくれた。
• 心寿 → 紗寿叶： 姉への信頼・誇り・愛情。
  「あなたの“かわいい”を、私はいちばん知ってる」──その信念が、静かに支え続けている。

感情はまっすぐなだけじゃない。
ときに絡まり、ときに折れ、ときに届かず、ときに救う。

けれど、それこそが“人が人を想う”ということのリアルで、だからこそ私たちはこの物語に心を動かされるのです。

✦ 「伝えたい」と思った瞬間から、物語は動き出す。
この作品が描くのは、「好き」という言葉がもつ無限のグラデーション。
それぞれの心の向きが交差するたびに、新しい“物語の余白”が生まれているのです。

まとめ｜“好き”のかたちは違っても、誰もが誰かの物語を生きている

『その着せ替え人形は恋をする』のキャラクターたちは、まるで鏡のようです。

自信がなくて、一歩を踏み出せなかった過去。
誰かに笑われて、好きなものを隠してきた記憶。
なりたい自分に、なれないもどかしさ。

それでも、彼らは立ち止まりませんでした。

海夢は、“好き”を誇れる自分でいるために笑い、
新菜は、“好き”を通して人とつながる喜びを知り、
紗寿叶は、“好き”を諦めない自分に出会い直し、
心寿は、“好き”な誰かを信じて支え続けた。

恋、夢、憧れ、尊敬、感謝、そして勇気。
その全部が「好き」という言葉に隠れている。

誰かの“好き”は、ときに遠回りで、ときに届かない。
だけど、その不器用さの中にこそ、私たちは“本当の気持ち”を見るのです。

✦ それぞれの“好き”は、違っていていい。
伝え方が違っても、向かう先が違っても、想いがまっすぐなら、それはすでに誰かの物語を動かしている。

この物語が教えてくれるのは、
“誰かの好き”を笑わない世界が、どれほどあたたかく、優しいかということ。

だからきっと、私たちの中にもあるはずなんです。
まだ名前のついていない“好き”が。

物語は、まだ続いています。
ページの先に、画面の向こうに、あの子たちの未来が待っている。

その続きを、一緒に見届けていきましょう。